筋肉量=「HP」、筋肉と寿命の関係とは? ①
寿命でも「筋肉は裏切らない」は本当だった
今回のテーマは、筋肉と寿命の関係について。
昨今の筋トレブームで、「筋肉は裏切らない」「筋肉は全てを解決する」などのフレーズを聞かれたことがある方も多いと思います。
今回の健康情報は、これらのフレーズが健康にも当てはまるというお話です。
筋肉が多いと寿命が延びる!
筋肉量のピークは20代で、健康な人でも歳を重ねると全身の多くの筋肉が減少します。加齢でそのスピードは加速し、50代以降では毎年1~2%も減少します。
運動の少ない非鍛錬者の場合、足の筋力は70歳ではピーク時の約70%、80歳では約半分程度になるとされています。
但し、全ての方がそうなるわけではありません。筋トレやマラソン、サッカーやテニスなど、運動が好きで鍛錬を行っている場合は筋肉量(筋力)が保たれます。
筋肉量が多いと、寿命が長いとの研究報告が多数出されています。
歩く速度や握力は、足や腕の筋肉量に比例し、筋肉量が多くて力が強いと早く歩けたり握力が強くなります。
米国ピッツバーグ大学老年医学部門のStephanie Studenski氏らの研究報告(JAMA.2011;305(1):50−58.)では、歩行速度と高齢者の生存率について以下のように報告しています。
歩く速度が遅いと生存率が低く、歩く速度が速い(筋肉量が多い)人は、男女共に遅い人に比べて、約3倍生存率が高くなりました。
九州大学大学院の実施した久山町研究では、住民の握力を測定し、強い、平均、弱いの3群に分けた場合の死亡リスクを以下のように報告しています。
握力が強い(筋肉量が多い)と65歳以上の高齢者では、握力が弱い人に比べて死亡リスクが0.4倍(1/2.5)に低下しました。
しかし、なぜ、筋肉量が多いと寿命が延びるのでしょうか?
その答えは、主に以下の理由であると考えられます。
筋肉量が多いと寿命が延びる主な理由
- 筋肉が大病の勝敗を左右する
- 筋肉が病気の予後や健康状態を左右する
- 動くために筋肉が必須
寿命が延びる理由その1筋肉が大病の勝敗を左右する
人は病気にかかると体と病気の闘いが起こり、体がすごく消耗します。
そのような状況になると食欲が落ち、仮に栄養が取れても平時のように使用できません。
インフルエンザなど、発熱した際に食欲がなくなる等の経験をされた方も多いでしょう。
大病でそのような状況が続いた場合に、体はどのように生命を維持する栄養を補っているか?
その答えの一つが筋肉です。体の一部、特に筋肉を分解してたんぱく質などの栄養素を体内で作り出して、生命を維持するために使用します。
筋肉が多いほど、万が一の時に生命を維持する栄養素を多く作り出すことが可能で、「筋肉が多い」状態は、ロールプレイングゲームや格闘ゲームでいう「HP*が高い」状態と言えるでしょう。
*HPとはヒットポイント(hit points, 略称: HP)は、ゲーム内のプレイヤーキャラクターやノンプレイヤーキャラクターがどれくらいまでの打撃(hit)に耐えられるかを数値化したデータである。 ヒットポイントが存在するゲームでは、キャラクターの攻撃によるダメージはヒットポイントと同じ基準で数値化される。
筋肉が多ければ、病気と闘った際により長く耐え続けることが可能です。
医療現場では、90歳以上でも筋肉量が多く体力のある方であれば手術に踏み切り、70歳でもがりがりに痩せて体力のない方では、術後のダメージに耐えきれないと判断して手術を行わないこともあります。
同じ病気や同じ容態でも、筋肉量で病気との戦いの勝敗が決まったり、治療方針が変わってしまうことが実際に起きています。